食べたことあるはずなのに、どっちがどっちかわからなかった
ファミレスのメニューを見て、あ、ビーフストロガノフある、と言ったら、それビーフシチューじゃないの?と隣に言われた。見たら確かにビーフシチューだった。名前を間違えた。でもそのとき、じゃあビーフストロガノフって何が違うのかを説明できなかった。なんとなく茶色い牛肉料理、それ以上の情報が出てこなかった。
両方ともビーフが入っていて、両方とも煮込みで、両方ともライスかパンと食べる。違いがわからないまま何年も注文していた人、けっこう多いと思う。
一番の違いはソースの色と出身地
ビーフストロガノフの特徴は誕生時期が16世紀前半でロシア発祥、ソースの種類はスメタナというサワークリームで、具材は牛肉、玉ねぎ、マッシュルーム。具材は薄切りにして煮込み時間は20分程度。一方ビーフシチューの特徴は誕生時期が16世紀後半から17世紀でイギリス発祥、ソースはデミグラスソース、具材は牛肉、人参、じゃがいも、玉ねぎで具材は大きく切って長時間煮込む。
出身国が全然違う。ロシアとイギリス。同じ牛肉料理でも、国が違えばソースが変わる。サワークリームで仕上げる白っぽい料理と、デミグラスソースで仕上げる茶色い料理。見た目から全然違う。日本のファミレスで出てくるビーフストロガノフが茶色かったりするのは、日本向けにアレンジされているため。本場のビーフストロガノフは白い。
歯が抜けた老人のために作られたという発祥の話
ビーフストロガノフは歯が抜け落ちてステーキが食べられなくなってしまった老人のために牛肉を細かく刻んで煮込み料理を作ったのが始まりとされている。ビーフはロシア語で風を意味しており牛肉の意味ではない。
ビーフという言葉がロシア語で風を意味する、というのは面白い話で、英語のbeefと全然関係ない語源を持っている。ビーフストロガノフを直訳するとストロガノフ風、ということになる。ストロガノフというのは料理を作ってもらった貴族の名前、あるいは宮廷料理人の名前という説がある。老人のための柔らか牛肉料理が、貴族の食卓を経て世界に広まった。
ハヤシライスとビーフストロガノフが混同される話
ビーフシチューだけじゃなくて、ハヤシライスとも混同されやすい。これも三つ並べると面白い比較になる。
三つとも牛肉と玉ねぎが入っているのに全部別物
ビーフストロガノフはハッシュドビーフやハヤシライスに似ている。食材や調理法が似ているがサワークリームを加えて作るのが特徴でハッシュドビーフやハヤシライスの茶色系の色合いとは異なりやや白く濁った色合いをしている。
色で区別するのが一番わかりやすい。白っぽいのがビーフストロガノフ、茶色くて具が大きいのがビーフシチュー、茶色くて具が薄切りなのがハヤシライス、という大まかな分け方ができる。でも日本ではアレンジが多すぎて、この区別が崩れていることが多い。
ビーフシチューはイギリス料理だったという話
ビーフシチューがイギリス発祥というのも、意外と知られていない話。フランス料理のイメージが強い西洋料理の中で、シチューはイギリスから来た。
ビーフシチューは牛肉、玉ねぎ、ニンジンなどをブラウンソースで長時間煮込んだ料理。牛肉は通常煮込み用の部位が使われ大きくカットしてじっくりと煮込む。味付けには赤ワインやブイヨン、トマトペーストが使われ時間をかけて煮込むことで肉がとろけるように柔らかくなる。
長時間煮込むというのがビーフシチューの特徴で、そこに意味がある。コラーゲンが溶け出してとろとろになる時間が必要で、安い肉の部位をうまく調理する知恵から生まれた料理でもある。時間と手間が味になる、という料理の構造。
日本でビーフストロガノフが独自に変化した話
本場のビーフストロガノフをそのまま食べた人は、実は少ない。
日本のビーフストロガノフはデミグラスソースが入る
日本でレストランやレトルトで売られているビーフストロガノフの多くは、サワークリームだけでなくデミグラスソースも使っている。茶色みが強い。本場のロシアのビーフストロガノフを食べた人が、え、これビーフシチューみたいな色じゃない、と思うのはそのため。
日本人の口に合わせてアレンジされた結果、ビーフシチューとビーフストロガノフが見た目で区別しにくくなった。本来は全然違う料理なのに、日本の食卓で近い存在になっていった。これはオムライスがフランスにない話と似た構造で、日本が西洋料理を独自に解釈して変化させたパターン。
サワークリームという食材が日本で普及していない問題
本場のビーフストロガノフの主役はサワークリーム。でも日本のスーパーでサワークリームを買う人は少ない。普段の料理に使う機会がない。だからビーフストロガノフを家庭で作るとき、サワークリームの代わりに生クリームや牛乳が使われることが多い。味のベースが変わる。サワークリームの独特の酸味が本場の味の核心なのに、それが抜けると全然違う料理になる。
この話が食卓で止まらなくなる理由
ビーフシチューとビーフストロガノフ、両方を食べたことがある人は多い。でも違いを説明できる人は少ない。この非対称が会話の入り口として使いやすい。
どっちが好き?という問いから始める
ビーフシチューとビーフストロガノフ、どっちが好き?という問いを投げると、まずどっちがどっちかわからない、という反応が来ることが多い。そこで違いを説明する流れになる。ロシアとイギリスという出身地の話、サワークリームとデミグラスソースというソースの違い、歯が抜けた老人のために作られた発祥の話、順番に出していくと話が積み重なっていく。
ハヤシライスを加えると三択になって話が広がる
ビーフシチューとビーフストロガノフの二択に、ハヤシライスを加えると三択になる。全部牛肉と玉ねぎが入っていて、全部茶色いのに全部別物。この三つをちゃんと区別できる人が少ない、という話をすると、じゃあ何が違うの?という質問が来る。答えを知っている側が、色、出身国、ソースの種類という順番で説明できると、話した側の満足感がある。

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