似てるようで、ぜんぜん違う二つの料理
オムライスとオムレツ、どちらも卵料理で見た目が似ている。黄色くて、楕円っぽくて、フライパンで作る。でも食べると全然違う。当たり前のことなのに、改めて何が違うの?と聞かれると意外とうまく説明できない。
オムレツとは卵を溶いてフライパンに流し入れ、半月型や木の葉型に焼いた卵料理のこと。中身に具材を入れることもあるが、ご飯を入れることはない。どちらかといえばおかずとして食べる。オムライスはチキンライスを薄焼き卵でオムレツのように包んだ料理で、これ一つで主食となる。
つまり最大の違いはご飯が入っているかどうか。それだけといえばそれだけなんだけど、この一点が料理の立ち位置をまるごと変えてしまっている。おかずか、主食か。卵をどう使うか。同じ材料で、まったく別の料理になる面白さがある。
オムレツの語源に王様が出てくる話
オムレツという言葉の語源、実は諸説あってはっきりしていない。でも一番面白い説がある。
昔むかし、フランスの王様が空腹を抱えて立ち寄った民家で、驚いた主人がとりあえず手元にあった卵を溶いて素早く焼き上げた。その早さに王様がquel homme leste(なんて素早い男だ)と感嘆したそうで、このオムレストが変化してオムレツになったというのが語源の一説。
quel homme lesteがなまってオムレツ…!?という話。本当かどうかはわからない。でも会話の中で使うと、え、そんな話があるの?という反応がほぼ確実に返ってくる。
オムレツの起源は古代ペルシャに遡るという説もあり、名称は16世紀フランスの料理に由来する。古代ペルシャから始まって、フランスで洗練されて、日本でオムライスに進化する。卵一個の料理がそんな旅をしてきた。
オムライスは世界のどこにも存在しない、日本だけの料理
オムライスはチキンライスをオムレツで包んだ日本独特の洋食で、アメリカやヨーロッパには存在しないとされる。英語のOmeletとRiceを組み合わせた和製外来語。
これ、地味に驚く話でしょ。洋食っぽい見た目をしているのに、本場の西洋には存在しない。日本人が西洋の料理を見て、自分たちの食文化と合わせて全く新しいものを作り出した。オムライスが日本の洋食文化の象徴と言われるのはそういうことで、ただのご飯入り卵じゃなく、文化の融合の結果として生まれた料理。
オムライスが生まれた瞬間、二つのエピソードがある
オムライスの発祥は東京説と大阪説で揉めている。どちらが正しいかは今も決着がついていない。でも両方の話を知ると、それぞれの面白さがある。
東京・銀座「煉瓦亭」のまかない飯から始まった
1900年、東京の洋食店「煉瓦亭」の厨房で、スプーンひとつで簡単に食べることができるまかない料理として、溶き卵、肉、タマネギをご飯と共に焼いた一皿があった。それを見かけた客が「是非それを食べたい」とリクエストし、ライスオムレツというメニューが誕生した。
もともとは立ったまま短時間で食べられる料理として作られた、という話が残っている。忙しい厨房スタッフのための飯が、客の目に留まってメニューになった。偶然の産物。ただこの頃のライスオムレツは、ご飯と卵を混ぜて焼くスタイルで、今のオムライスとは別物に近い。
大阪・北極星の胃の弱い常連客の話が泣ける
そのおよそ20年後、大阪の洋食店「北極星」の前身「パンヤの食堂」に、常連客で胃の調子が悪く、いつもオムレツと白いご飯だけを食べている人がいた。店の主人が「毎日同じものばかりではかわいそうだ」とタマネギとケチャップで炒めたライスを薄焼き卵で包んで出した。そこからオムライスという名前がついた。
食べられるものが限られているお客さんに、少しでも楽しんでほしいという気持ちで作った料理。名前を聞かれてとっさにオムレツとライスを合わせてオムライスと答えた、という逸話も残っている。感情をそのままぶつけるのではなく、料理という形に包んで渡した。それがオムライスの始まりだったかもしれない。
卵とご飯を組み合わせた原型は「煉瓦亭」、薄焼き卵で包み込む現在のスタイルは「北極星」、オムライスは2つの支流から大河へと成長した。どちらが発祥かではなく、二つが揃って今のオムライスになった、という理解が一番しっくりくる。
ケチャップが普及しなければオムライスはなかった
オムライスといえばケチャップ。あの甘酸っぱい赤、オムライスの顔といってもいい。でも明治のはじめにはケチャップが日本になかった。
ケチャップが日本で普及したのは1908年(明治41年)以降のこと。それ以前の煉瓦亭のライスオムレツにはケチャップが使われていなかった。ケチャップが広まったことで、チキンライスの味が決まって、あの定番の形になった。
調味料一本が料理の歴史を変えた、という話は会話にも使いやすい。ケチャップがなかったらオムライスは違う料理になってたかもしれない、という仮定の話は相手がのってきやすい。
たんぽぽオムライスという名前の由来も面白い
日本橋の洋食店「たいめいけん」の名物タンポポオムライスは、1985年の映画「タンポポ」に由来する。半熟のオムレツを開いてチキンライスと一緒に食べるシーンが映画に登場し、そこからインスパイアされて生まれた名称で、映画「タンポポ」への敬意を込めて「伊丹十三風」と付けて提供されている。
映画から料理の名前が生まれる、というのもなかなかない。伊丹十三監督はラーメンを題材にした映画を作りながら、オムライスにも爪痕を残した。食と映画が交差するあのシーン、実際に見るとわかるけど、卵をナイフで開いてとろっとした中身がご飯に絡む映像、やたらうまそうに見える(笑)。
この話を雑談で使うと何が起きるか
オムライスとオムレツの違いを聞かれて答えられない人が多いのに、聞いたことがない人もいない。全員が知っている料理なのに、意外と知らない話が詰まっている。それが会話の素材として強い理由。
発祥論争は意見が割れやすくて話が続く
東京と大阪、どちらが本当の発祥だと思う?という問いは意見を引き出しやすい。明確な答えがないから、それぞれが自分の立場で話せる。関西出身の人は北極星説を押してくることが多い。関東出身の人は煉瓦亭を推すことが多い。出身地で立場が分かれる話題は、そのまま相手の背景を引き出す糸口になる。

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