スーパーでかいわれ大根を手に取って、ふと躊躇した
サラダ用にかいわれ大根を買おうとして、パックを手に取ったとき、なんとなく頭の片隅に引っかかるものがあった。かいわれって、なんか食中毒のイメージなかったっけ。昔そういうニュースがあった気がする。という曖昧な記憶。
親に聞いたら、ああ、O157のやつね、と言われた。1996年の事件。かいわれ大根が原因だと報道されて、一時期スーパーから姿を消したらしい。でも調べてみると、かいわれは濡れ衣だった可能性が高い、という話が出てきた。
1996年に何が起きたのか
1996年7月に大阪府堺市の小学校給食によるO157食中毒事件が起き、学校給食を食べた児童と教職員計7936人が発症し、その家族ら1557人が二次感染した。重症の溶血性尿毒症症候群の発症者は121人にのぼり、当時7歳から12歳の小学女児3人が死亡した。原因食品は貝割れ大根使用食品と推定された。
7936人発症、3人の児童が死亡。日本中を震撼させた大事件だった。そして原因として貝割れ大根が名指しされた。当時まだ一般的でなかった野菜が、突然殺人細菌の運び屋として全国に名前が広まった。
児童が食べた食材を詳しく検査した結果、当時まだ一般的な野菜ではなかったカイワレ大根に菌が付着していたという結論が報告され、あっと言う間に市中からカイワレがなくなった。
報道された瞬間、かいわれが店から消えた。生産業者は壊滅的な打撃を受けた。風評被害という言葉がこれほど当てはまる事例も珍しい。
実はかいわれから菌は検出されなかったという事実
ここが一番大事な部分。
食材等の検査は全国的に実施され、食材については985検体、施設のふきとりや使用水、排水などは724検体の計1709検体について細菌検査を実施したが、大腸菌O157は検出されなかった。
1709検体を調べて、O157は一つも見つからなかった。かいわれが原因だと推定されたのは、加熱されない食材という消去法的な理由だった。
加熱工程が加わらないものは貝割れ大根、牛乳、パンの3点である。このうち牛乳とパンは複数業者が納入しており配送分布と発生校、非発生校の分布が一致しないことから、可能性として貝割れ大根が残った。
牛乳とパンが除外されて、残ったのがかいわれだった、というだけ。確たる証拠で特定されたわけではなく、他が消えたから残った、という推定。それなのに、かいわれが犯人だと断定されたかのように報道が広まった。原因は今も完全には特定されていない。
厚生大臣がかいわれを生で食べてみせた話
この事件には有名なエピソードがある。
一時原因とされた大阪のカイワレ大根の製造業者が風評被害で打撃を受けた当時、厚生大臣だった菅氏はカイワレ大根を一気食いして安全性をアピールした。あんなにいっぺんに平らげたことは初めてと笑いながら振り返った。
当時の厚生大臣が、カメラの前でかいわれを大量に食べて見せた。安全だというアピールのため。風評被害を止めるための行動だった。政治家が食べ物の安全を体で示すという光景、なかなかない。それだけ事態が深刻で、生産業者の打撃が大きかったということでもある。
かいわれそのものが危険なわけではない、という結論
では今のかいわれは安全なのか。
種子の管理が問題で、芽そのものが毒なわけではない
サルモネラや腸管出血性大腸菌O157は乾燥種子中では増殖することはないが、適切な環境におかれた場合には増殖する危険性があることに留意すべきである。種子中の汚染頻度は極めて低く菌量も少ないため、通常検査で種子から病原菌が分離培養されない場合であってもO157が付着している可能性が高い。
かいわれが構造的に危険なのではなく、種子に菌が付着していた場合、発芽の過程の温かく湿った環境で菌が増える可能性がある、という話。これはかいわれに限らず、もやしやスプラウト類全般に共通する。発芽野菜は菌が増えやすい環境で育つから、種子の衛生管理が決定的に重要になる。
今は種子の消毒や栽培環境の管理が事件当時より格段に厳しくなっている。スーパーに並んでいるかいわれは管理されたものだから、過度に恐れる必要はない。食べる前に流水でよく洗えば、家庭でできる対策としては十分。
この話が会話のタネとして強い理由
かいわれを食べたことがある人は多い。そして1996年の事件を覚えている世代と知らない世代がいる。世代によって反応が分かれる話題。
かいわれが濡れ衣だったという逆転の話
かいわれって昔O157の原因だって言われたの知ってる?という問いを投げると、年配の人は覚えていることが多い。でも実はかいわれから菌は検出されなかった、消去法で残っただけだった、という話を続けると、え、そうだったの、という反応になる。犯人扱いされたものが実は無実だった、という構造は話として強い。報道と実態のずれ、という普遍的なテーマにもつながる。
風評被害という言葉のリアルな実例として使える
厚生大臣がかいわれを生で食べてみせた話は、知らない人には驚きをもって受け取られる。風評被害がどれほど深刻だったかを示す具体的なエピソード。ニュースの報道が一つの産業を壊すことがある、という話は、現代のSNS時代にも通じる。食べ物の話から始まって、情報の扱い方や報道のあり方の話に広がる展開になる。雑談が社会の話に深まる瞬間。

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