何気なく使っていた言葉が全部違うものを指していた
クローゼットの前で、今日はジーパンにしようか、とつぶやいた瞬間にふと気になった。ジーパンとジーンズって同じもの?デニムとは何が違うの?何十年も着てきたのに、何と呼ぶかをその場の気分で変えていただけで、ちゃんと考えたことがなかった。
調べたら、三つの言葉がそれぞれ別の場所から来ていた。フランス、イタリア、そして日本。同じズボンを指しているはずなのに、語源が全部違う。
デニムはフランスの地名、ジーンズはイタリアの港町の名前
デニムという言葉のルーツは南フランスのニーム地方で19世紀にこの地方で盛んに生産されていた綾織物はSerge de Nimeセルジュ・ドゥ・ニームと呼ばれていた。この生地がアメリカをはじめとする英語圏に渡り取引されるうちに発音が変化していきデ・ニームそして最終的にデニムという呼び名になったと言われている。一方ジーンズという言葉のルーツはイタリアの港町ジェノバにあると言われている。ジェノバから来た船乗りたちが履いていた丈夫なズボンやそのズボンに使われていた生地のことを人々はジェンズGenesやジェノワーズGenoisと呼んでいた。これが英語圏に伝わる過程で次第に発音が変化しジーンズという呼び方に変わっていったと考えられている。
フランスのニームとイタリアのジェノバ。全然別の場所から来た言葉が、同じズボンの上で混在している。ニームの綾織り生地がデニムになって、ジェノバの船乗りのズボンがジーンズになった。地中海を挟んだ二つの場所の話が、今の日常着に残っている。
デニムは生地の名前、ジーンズはズボンの名前という違い
デニムは生地の名前でジーンズはデニム生地を使ったズボンのことを指す。ジーパンはジーンズの和製英語でGジャンはデニムジャケットの俗称。
デニムはあくまで素材の名前。デニム生地で作ったバッグはデニムバッグと呼ぶけど、ジーンズバッグとは言わない。ジーンズはズボンとして完成した状態を指す言葉で、デニムジャケットをジーンズジャケットとは呼ばない。この区別、なんとなくできているようで、改めて言語化すると面白い。
ジーパンという言葉は日本だけの和製英語という話
ジーパンを海外で使っても通じない。これを知らない人がかなり多い。
ジーパンはジーンズパンツのパンツを省略した言葉
英語ではjeansでデニム生地で出来たパンツのことを表すのでジーンズパンツの略称であるジーパンはデニム生地で出来たパンツのパンツとでも言うようなヘンテコな意味になってしまう。完全な和製英語。
ジーンズパンツのパンツを省略してジーパン。でもジーンズ自体がすでにパンツという意味を含んでいる。パンツのパンツ、という二重構造になってしまっている。日本語独自の言葉の圧縮スタイルが、変な二重表現を生んだ。ホッチキスの名前が商品名から来た話と似ていて、日本語は外来語を独自にいじるのが得意すぎる。
Gジャンも和製英語だった
かつてはジーンズで出来たジャンパーを略したジージャンという呼び方が一般的だったがこれはジーパン同様に和製英語。素材として言うならデニムの方が適切であるためデニムジャンパーもといデニムジャケットという呼び方の方が適切。
Gジャン、ジージャン、デニムジャケット。全部同じものを指しているのに、呼び方が三つある。しかも正式な英語はデニムジャケット一択で、GジャンもジージャンもMade in Japanの表現。日本人がデニムに愛着を持ちすぎて独自の言語体系を作ってしまった。
ジーンズが両脚で穿くから複数形になった話
英語でjeansが複数形なのはなぜか。
元々はJeanジーンと呼ばれていたが両脚で穿くため複数形のJeansに変化した。ちなみにチノーズ通称チノパンも使用されている生地チノクロスの複数形。
両脚があるから複数形。これはパンツという英単語も同じ考え方で、ズボンの脚が二本あるから複数形。英語のズボン関係の言葉が複数形になっているのは、全部この理屈から来ている。ハサミが英語でscissorsと複数形なのも同じ。二つのパーツからできている道具は複数形で呼ぶ英語の習慣。
この話、知ってる?と聞くと知らなかった、という反応が多い。英語の文法の話なのに、服の話から入れる。雑談として使いやすい入り口になる。
ジーンズが作業着からファッションになった話
今では高級ブランドのデニムが数万円で売られているけど、ジーンズはもともと過酷な労働のための服だった。
ゴールドラッシュの金鉱夫が着ていた服が起源
デニムの歴史と切っても切れない関係にあるのが19世紀半ばのゴールドラッシュ。このとき作業員たちが着ていたツナギのことを身体全体を覆うという意味でオーバーオールと呼んでいる。
リーバイ・ストラウスがゴールドラッシュで働く鉱夫のために丈夫なズボンを作った話は有名だけど、ジェノバの船乗りからゴールドラッシュの金鉱夫を経て、今の高級デニムに至るまでの流れが面白い。汚れても破れてもいい、という前提で作られた生地が、今では洗わないほどいいというカルチャーになっている。
洗うと色が落ちる藍染めの特性が、ヴィンテージデニムの価値を生んだ。使い込むほどに育つ服。使い捨て文化と真逆の服が、作業着から生まれていた。
この話が服の話から始まる会話として使える
ジーンズを持っていない人はほぼいない。全員が当事者の話題で、しかも知っているようで知らない話が詰まっている。
ジーパンが和製英語と知ったときの反応
ジーパンって海外で通じないらしいよ、という一言で会話が動く。え、そうなの?という反応が来て、ジーンズパンツのパンツを省略した言葉だから二重表現になってる、という話を続けられる。Gジャンも同じ、という話を加えると、服の名前のいい加減さと愛着の話になる。
デニムはフランス、ジーンズはイタリアという語源の話をすると、同じズボンを指す言葉が地中海の二つの場所から来ている、という話になる。食べ物の語源話と同じ構造で、服の話から地理と歴史の話になっていく展開。知識が連鎖する会話は、どちらの側も楽しくなる。

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