なんとなく左上に止めていたけど、根拠を聞かれたら答えられなかった
新入社員の頃、先輩に書類をホッチキスで止めて渡したら、左上じゃないとダメだよ、と言われた。その時は、はい、すみません、と言ったけど、なんで左上なのかは聞けなかった。以来ずっと左上に止め続けて、後輩に同じことを言う立場になった。なんで左上なの?と聞かれて、うーん、それがマナーだから、としか言えなかった。
根拠のないマナーを伝え続けていた。ちょっと恥ずかしかった。
答えはシンプルで、読み始める位置に止めるという原則
横書きであれば左上の角、縦書きであれば右上の角を止めるのが基本的なマナー。横書きの場合は左上から読み始めて右下で終わる。縦書きは右上から読み始めて左下で終わる。読み終わったところでページをめくるため、その対角線上にホッチキスを止めるとスムーズに読み進めることができる。読み始める位置に止めると覚えておくと間違いない。
読み始める位置に止める。これだけ。横書きは左上から読むから左上に止める。縦書きは右上から読むから右上に止める。理由がわかった瞬間に、あ、そういうことか、となる。
ただ、読み始める位置に止めると言われても、止める角度については別の話がある。
45度で止める理由が地味に重要
ホチキスの針は横向きではなく斜め45度に止めることで、ページをめくる際にかかる下方向への圧力を防ぎ用紙にシワがついたり破れたりするのを回避できる。正しい止める位置や角度は、文章の始まりから終わりへの視線移動やページをめくる動作といった読み手が書類を扱う際の自然な流れと読みやすさを考慮したものである。
横向きにまっすぐ止めると、めくるたびに紙に負荷がかかって端が破れやすい。45度に傾けることで、めくる方向に対して針が斜めになり、力が分散する。機能的な理由があった。マナーだからという理由だけで伝えてきたものに、ちゃんとした根拠があった。
右利きの話が出てくる、という意外な視点
左上でホッチキスを止めた方が良いのにはもう一つ理由がある。日本人は多くの人が右利きであるため左手で資料をめくり右手にボールペンを持ってメモすることになる。その際資料をめくる方向が右側ではなく左前方になれば、メモする右手の邪魔にならないから。
左手でめくって右手でメモする。その動作を邪魔しないように左上に止める。会議中に資料を使いながらメモを取るシーンを想像すると、確かにそうなる。横書き書類が左上に止められている理由が、読み方だけでなく会議での使い勝手にも紐付いていた。知ってから、ホッチキスを止める動作の意味が変わった。
縦書きと横書きが混在している場合は左上が正解
縦書きと横書きが混在している書類であれば左上が一般的。
混在している場合に迷う人は多い。答えは左上一択。なぜかというと現代のビジネス書類は横書きが圧倒的に多く、横書きのルールを優先するのが実用的だから。縦書きが混じっていても、横書きに合わせる。
ホッチキスの名前の由来が面白い
止め方の話から少し外れるけど、そもそもホッチキスという名前の由来を知っている人が少ない。
ホッチキスは英語のHotchkissという人名から来ている。アメリカのE.H.ホッチキス社が1877年に製造したステープラーが日本に入ってきたときに、製品名であるホッチキスがそのまま道具の名前として定着した。英語圏ではステープラーと呼ぶのが一般的で、ホッチキスという名称は日本独自の呼び方。
海外の人に対してホッチキスと言っても通じない。ステープラーと言えば通じる。日本だけで使われている商品名が道具の名前になってしまったパターン。セロテープ、宅急便、ウォークマンなど、同じパターンの言葉は他にもある。
この話が会話のタネとして使える場面
会社員なら全員が使う道具で、知っているようで知らない話がある。
なんで左上なの?という問いを投げてみる
職場でホッチキスを使う場面で、なんで左上に止めるか知ってる?という問いを投げると、マナーだから、なんとなく、という答えが多く返ってくる。そこに読み始める位置に止めるという原則と、右利きの話を出すと、なるほど、という反応になる。
知っていたよという人も、45度に止める理由まで知っている人は少ない。角度にも根拠がある、という話を続けると、また一段階深くなる。マナーに見えていたものが全部機能的な理由から来ていた、という気づきが気持ちいい。
ホッチキスという名前が海外で通じないという話で笑いが取れる
外国人の同僚や取引先と話す場面で使える話。ホッチキスは日本だけの呼び方で、海外ではステープラーという話は軽い驚きをもって受け取られる。日本語の中に潜んでいる外来語だと思っていたものが、実は日本だけのローカル用語だった、という逆転が面白い。セロテープの話などと一緒に出すと、日本語の固有語化の話として一本の流れになる。
書類の止め方という地味な話から始まって、文具の名前の話になって、日本語の特徴の話になる。雑談の広がり方として、こういう連鎖が一番自然に深くなる展開だと思う。

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